第5章 技術その4 ─ 「言える化」で現場の声を掘り起こす

アンゼンアンシン

危険は”違和感”のうちに止める

「何か、おかしいな……」

重大な労働災害の報告書を詳しく調べていくと、その事故が起きる数日前、あるいは数時間前に、現場の誰かが感じていた、この小さな「違和感」に辿り着くことが少なくありません。

「あの機械、いつもと違う音がする気がする」

「この足場、少し不安定じゃないか?」

「今日の〇〇さん、なんだか集中できていないように見える」

こうした「違和感」は、例えると、災害という“病”の初期症状かもしれません。ところが、多くの場合、この貴重なシグナルは誰にも伝えられることなく、現場の喧騒の中にかき消えてしまいます。なぜでしょうか。

「こんなことを言って、心配症だと思われたら恥ずかしい」

「ベテランの職人さんが気がついていないわけがない」

「みんな忙しいのに、流れを止めてまで言うほどのことではないのではないか」

「自分が指摘したせいで、人間関係がギクシャクするのは嫌だ」

このような、遠慮、気兼ね、自己保身といった心理的な壁が、声に出すことをためらわせてしまいます。そして、せっかく気がついた小さな違和感は放置され、やがて取り返しのつかない大事故という最悪の形で、その存在を証明してしまうのです。

「いのちを守る技術」において、この初期症状、つまり、

現場の作業員一人ひとりが感じる「違和感」や「気づき」

をいかにして(すく)い上げ、対策につなげるかは極めて重要なテーマです。

それを実現する技術が「言える化」です。

「言える化」とは、単なる「報告・連絡・相談の徹底」といったルールを作ることではありません。現場にいる誰もが、その人の立場や性格、役職、経験年数に関係なく、危険や懸念を感じた時に、安心して声に出すことができる『しくみ』と『文化』を意図的に作り上げる技術のことをいいます。

危険の芽は、小さな違和感のうちに摘み取らなければなりません。そのためには、現場に埋もれている無数の「声なき声」を掘り起こす言える化の『しくみ』が不可欠なのです。