第2章:パワハラの「6類型」と「指導」との境界線 その4

ハラスメント

4. 現代の職場で特に注意すべき新たなパワハラリスク

従来のパワハラ対策に加えて、現代の職場環境の変化に伴い、新たに注意すべきパワハラのリスクが生まれています。これらについても触れておきましょう。

(1) リモートワーク環境でのパワハラ

コロナ禍以降、リモートワークが普及する中で、新たなパワハラの形態が問題となっています。

注意すべき行為例

  • オンライン会議で特定の従業員を意図的に無視する
  • 必要以上に頻繁な監視や報告を求める
  • プライベート空間が映る状況での会議参加を強要する
  • 深夜・早朝の業務連絡を常態化させる

(2) 世代間ギャップによるパワハラ

価値観の多様化により、世代間での認識の違いが原因となるパワハラも増えています。

具体的な課題

  • 「これくらいは当たり前」という従来の常識の押し付け
  • デジタルネイティブ世代への理解不足
  • ワークライフバランスへの価値観の違い

(3) ダイバーシティ時代の配慮事項

性的マイノリティ、外国人労働者、障害者など、多様な背景を持つ従業員への配慮が求められています。

特に注意すべき点

  • 無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)による言動
  • 文化的背景への理解不足
  • 合理的配慮の欠如

まとめ:パワハラと指導の境界線を見極める力

パワハラと指導の境界線は、時に細く、見えにくいものです。しかし、その根底にある**「相手を尊重し、成長を願う心」があるかどうか。その言動に、業務上の目的を超えた「私的な感情や支配欲」**が混じっていないかどうか。その違いが、両者を分ける決定的な差となるのです。

私たちが提供すべき価値

社会保険労務士として、私たちが顧問先に提供すべき価値は、単なる法的知識の提供にとどまりません。それは:

  1. 予防的な組織風土づくりの支援
  2. 管理職の指導力向上への貢献
  3. 多様性を活かした職場環境の実現
  4. 持続可能な成長を支える人材育成体制の構築

これらすべてが、真のパワハラ防止対策なのです。

実践への第一歩

この章で学んだ知識を、ぜひ明日からの実務に活かしてください。顧問先の管理職が自信を持って部下を指導し、すべての従業員が安心して能力を発揮できる職場づくり。それこそが、私たち社会保険労務士の使命なのです。

私たちは、法律論という「ものさし」と、人間への深い洞察という「共感力」の両輪で、この複雑で重要な問題に立ち向かっていく必要があります。

次章では、セクシュアルハラスメントと妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントについて、同様の実践的なアプローチで解説していきます。