【墜落・転落災害の本質】──「自分がどこにいるか」がわからなくなる瞬間

アンゼンアンシン

最近、次の動画を用いて墜落・転落災害の本質を説明しています。


釣竿を大きく振ろうとした人が、バランスを崩してそのまま海に落ちてしまう──たった数秒の映像ですが、「転落災害が起こる瞬間」を非常にわかりやすく伝えています。

この場面から見えてくるのは、「人は、自分がどこにいるかを忘れてしまうことがある」という怖さです。

いつの間にか“足場のない場所”に体を出してしまう

釣竿を振る動作に集中したその人は、おそらく「自分の足元がどこにあるのか」「後ろがすぐ海だ」という意識が一瞬、抜けていたのでしょう。
重心が前に出たまま体を戻そうとしたとき、もう足場はありませんでした。

転落災害は、何か特別な状況で起きるわけではありません。
むしろ、「普段どおり」「いつもの手順で」と思っているときにこそ発生します。

転落の引き金は「空間認知の喪失」

私たちは、作業や動作に集中するあまり、無意識のうちに“空間認知”を失うことがあります。

  • 今、自分がどこに立っているのか
  • 周囲に何があるのか
  • どの方向に身体を動かすと危険なのか

こうした情報を一瞬でも見失ったとき、事故は起きます。
それは決して“注意力が足りない”のではなく、人間の認知の限界でもあります。

建設現場でも同じことが起きている

この動画を見て、私は建設現場での事例をすぐに思い出しました。

  • 荷物を運びながら作業床の端を踏み外して転落
  • 電源ケーブルの巻き取り作業中に後ろにあった開口部から転落
  • コンクリートの擁壁上を歩行中に足を踏み外して転落

どれも共通しているのは、「本当はそこに立つべきじゃない場所」に、無意識のうちに自分の体が出てしまっているという点です。

対応すべきは、“意識”ではなく“仕組み”です

「気をつけてください」では、事故は防げません。
必要なのは、「自分がどこにいるかを思い出す仕組み」をつくることです。

  • 作業前に「今、どこで・何をするのか」を言葉にする(KY活動)
  • 足場の端や危険エリアには、わかりやすい視覚的サインを置く
  • 単独作業を避け、仲間と相互に声をかけ合う
  • 動作を“段取り化”して、体が無意識に動かないようにする

「人は忘れるものだ」と前提に立ったうえで、安全をどう守るかを考える必要があります。

最後に:意識の空白が、命の空白につながる

転落は、作業手順が間違っていたわけでも、設備が不十分だったわけでもない場合に起こることが多い災害です。

だからこそ、「あの人が落ちるとは思わなかった」という言葉が後を絶ちません。
私たちが危険の芽を摘むべきなのは、そうした“想定外”の瞬間です。

冒頭の動画のように、「自分がどこにいるのか」が一瞬でも抜けたとき、転落は起きます。
だからこそ、私たちは何度でも「ここはどこか?」「この一歩は安全か?」と自分自身に問い直さなければならないのです。

このような視点を、現場の安全教育やKY活動に活かすことで、「見えているはずの危険」を確実に防ぐことができると思います。