技術その1:自分の行動をコントロールする
──行動=f(パーソナリティ・環境)で「いのちを守る技術」を身につける
「いのちを守る技術」ってなんですか?
私たちが毎日当たり前のように取り組んでいる安全衛生活動。
実はそのすべてが、「いのちを守る技術」と言えます。
技術と聞くと、何か特別な資格やスキルが必要なように感じるかもしれませんが、そうではありません。
行動の仕方、声のかけ方、モノの置き方、空気のつくり方──
こうしたすべてが、命を守るための「技術」なのです。
その最初のステップを「技術その1 自分の行動をコントロールする」としました。
レヴィンの法則:行動は環境で変わる
ここで登場するのが、クルト・レヴィン(Kurt Lewin)という心理学者です。
彼は次のような法則を提唱しました。
行動 = f(パーソナリティ・環境)
行動は「個人の特性(パーソナリティ)」と「環境」の関数である
この「f」は「function(関数)」の略、式全体に影響を及ぼす環境変数ととらえてもいいでしょう。
つまり、人の行動は「その人の性格や考え方」と「今いる環境」の組み合わせで決まるという意味です。
たとえば、どれだけ慎重な人でも、焦らされる雰囲気や足元の悪い場所ではつい急いでしまう──
逆に、厳しい職長がいたり、時間にゆとりがある現場では、安全な行動を取りやすくなります。
【用語の解説】
- パーソナリティ(personality):個人の性格や行動の傾向。人間性、人格、個性、価値観、性格など生まれつきの性質や、これまでの経験で形成されたもの。
- 環境(environment):作業現場の物理的な状況(音・温度・配置など)や、集団の規制、人間関係、職場風土・雰囲気なども含めた「まわりのすべて」。
- 関数(function):ある要因(ここではパーソナリティと環境)が変われば、結果(行動)も変わるという数学的な考え方。
行動を変えるには「環境」を変える
「危ないと分かっていても、やってしまう」
「面倒だけど、今日は時間がないから省略した」
こうした不安全行動は、決してその人だけの責任ではありません。
- 工具が乱雑に置かれていれば、慌てて使おうとして怪我をする
- 安全表示がなければ、リスクに気づかないまま行動する
- 「早く終わらせろ」という空気があれば、安全確認を飛ばしてしまう
このような「そうさせてしまう環境」があったからこそ、起きた可能性が高いのです。
だからこそ、自分自身の「ついやってしまう行動」をコントロールするには自分のパーソナリティを変えるより、環境を変えることが自分の行動を「安全に導く」ための重要な手段なのです。
【具体例】「環境」で自分の安全行動を引き出す
- 毎朝、家族など大切な人に「無事で帰ってきて」と言ってもらう
- リスクが高い作業を始める前に大切な人のことを思い出す
- 同僚に頼んで、近道行動をしたときに指摘してもらう
- 定期的に災害事例を読んで、事故のパターンを知る
- 使用頻度が高い工具や資材を手前に配置し、無理な動作を減らす
- 積極的に声をかけやすい雰囲気を朝礼で意識的につくる
このように、環境を整えれば、「気をつけなくても、自然と安全な行動を取ってしまう」状態がつくれます。
「努力する」のではなく「整える」
自らの不安全行動をなくすには、「根性」や「反省」だけでは不十分です。
『行動=f(パーソナリティ・環境)』というレヴィンの法則は、こう教えてくれます。
人は“環境”によって自然と動かされる存在である。
だからこそ、努力する前に整える。
安全行動が「当たり前」になる環境をつくることが、最も確実な安全対策です。
【まとめ】いのちを守る技術その1 ー 自分の行動をコントロールする
「いのちを守る技術」──
その第一歩は、「自分の行動をコントロールする」こと。
ただし、自分を責めて無理に変えようとしないでください。
環境を変えることで、自分の行動が自然に変わる。
これが、レヴィンの法則を応用した「技術その1」の考え方です。
次回予告:「技術その2」は習慣行動化
次回は、「安全行動」を維持するための技術、
すなわち、「習慣行動化」の技術をご紹介します。