【はじめに】
現場の安全は、「名前」で測られていないか?
「この人がいれば安心」「あの人だと少し心配」──
建設現場では、現場代理人の名前がそのまま“安全のバロメーター”になっていることが少なくありません。
どちらも経験も知識もあるのに、安全の質に差が出るのはなぜか。
その答えは、「ルールの理解」ではなく「行動の習慣」にあります。
安全を守る技術は、形式や仕組みではなく、“その場でどう動くか”に宿ります。
そして、その行動に注目する手法が BBS(Behavior-Based Safety)です。
この記事では、BBSを軸に、代理人のスキルを見える化し、再現可能にする仕組み──
つまり「属人性からの脱却」と「スキルの平準化・水平展開の進め方」をご紹介します。
なぜ、BBSが必要なのか?
BBSとは、「人の行動」に焦点を当てる安全管理の技術です。
ルールを守るかどうかではなく、実際に何をしていたのか、何がされなかったのかに目を向けます。
たとえば──
- なぜ、あのとき声をかけなかったのか?
- なぜ、手すりを外して作業を始めてしまったのか?
- なぜ、確認せずに工程を進めてしまったのか?
私たちが知りたいのは、そうした“行動の背景”です。
人はミスをする生き物。でも、同じミスを繰り返さないためには、
「見て、伝えて、変える」仕組みが必要です。
【BBSを軸とした】スキル平準化・水平展開の5つの実践
① 段取りと安全を“行動単位”で見える化する
優れた代理人ほど、段取りの中に安全配慮を“自然に”組み込んでいます。
そのノウハウを、「当たり前」で終わらせず、チェックリスト形式で形式知化します。
🔧 例:足場設置前の下見チェック
- 作業スペースに障害物はないか
- 仮設資材の仮置き場所は安全か
- 手順通りの順序で作業できるか
「できる人のやり方」を、行動レベルにまで落とし込んで共有する──
これが属人化の打破につながります。
② スキルの“見える化”と行動観察(=BBSの実践)
「できる・できない」ではなく、「どこまでできているか」を把握する。
スキルマップを活用して、段取り力・KYの実施力・周囲への注意などを項目ごとに見える化し、
BBS(行動観察)で、日常の行動を客観的に確認・共有します。
👀 観察のポイントは3つ:
- 良い行動も“記録”する
- 指導ではなく“気づき”として伝える
- 個人を責めず、育成の材料とする
③ 成功事例は“ストーリー”と“見える形”で共有する
経験は、言葉にしないと伝わりません。
だからこそ、優れた判断・行動はエピソードとセットで記録し、図・動画など視覚的に共有します。
📌 例:
「段取り8割で油断しかけた現場──それを未然に防いだ職人の判断」
→ 現場写真+状況図+振り返りコメント
人がつまずいた話ではなく、「踏みとどまった行動」にこそ学びがあります。
④ テンプレートとITで“行動の標準化”を支援する
KY記録、段取り計画、巡視点検──
これらのフォーマットを統一し、スマホやタブレットで誰でも入力・共有できるツールとして整備します。
📲 実施ポイント:
- 各フォーマットに「安全行動の確認項目」を追加
- 最低限の確認を、入力操作だけで済ませる仕組みに
記録がそのまま「行動の点検」になることで、安全管理のばらつきを小さくできます。
⑤ OJTは「何を見せるか」までデザインする
若手に同行させるだけでは、行動は伝わりません。
“どの場面”で“何を見せるか”を設計するOJTが必要です。
📌 実践例:
- 週1回、段取りと安全が交差する場面での振り返りミーティング
- BBS観察シートを使って、良い行動・改善点を共有
目的は、「感覚の継承」ではなく、「判断と行動の再現性」を育てることです。
【まとめ】仕組みで、行動を支える
課題 | 解決のためのアプローチ(BBSベース) |
---|---|
スキルの暗黙知 | 行動チェックリスト化・マニュアル化 |
スキル差の拡大 | スキルマップ+BBSによる観察と支援 |
経験伝承の非効率 | ストーリー化・見える形での共有 |
実施レベルのばらつき | テンプレート化・IT支援での統一 |
育成の偶発性 | 計画的OJT+行動観察による意図的な継承 |
【最後に】行動が変われば、現場が変わる
人は、「見られている」と意識するだけで行動が変わります。
そして、「その行動を見て、言葉にしてくれる誰か」がいるだけで、安全は確実に育ちます。
BBSは、注意するための仕組みではありません。
支え合いの行動文化を、根付かせるための技術です。
スキルの平準化とは、一人ひとりの行動を、みんなで育てていく営みそのものです。
属人化に頼らない、安全な現場づくりの第一歩として──
あなたの現場にも、BBSという視点を取り入れてみませんか。