「いのちを守る技術」3

アンゼンアンシン

「いのちを守る技術」その3──環境設計の技術

作業員の行動は「環境」で変わる。やらせるのではなく、“やりたくなる環境”を整える。


「その3」は、現場責任者が使う“しくみ”の技術です

これまでの「いのちを守る技術」その1とその2では、
作業員自身が「自分の行動を意識してコントロールすること」、
そして「安全行動を習慣化すること」に焦点を当ててきました。

しかし、どんなに意識の高い作業員でも、
毎日100点満点の行動を続けられるわけではありません。
だからこそ「その3」では、作業員任せにしない安全の技術として──

環境を整えること=行動を変えること
という視点が必要です。


「環境設計の技術」──行動は“環境”がつくる

安全行動は「心がけ」や「注意喚起」だけでは定着しません。
人の行動は、思っている以上に“環境”の影響を受けています。

「いのちを守る技術 その1」でも紹介した、心理学者クルト・レヴィンの有名な法則があります。

行動 = f(パーソナリティ × 環境)

この式を現場に置き換えると、
「安全行動を自然に引き出す職場環境」こそが命を守る仕組みであることがわかります。


現場責任者が整える「3つの環境」

現場責任者が取り組むべきは、「見張ること」ではなく、「環境を設計すること」。
以下の3つの環境づくりが、安全行動を後押しするカギとなります。


1.視覚的環境──「見える化」で安全が日常になる

  • 危険箇所や作業手順を色分け・標識・チェックリストで視覚化する
  • 手順書やKY(危険予知)カードの掲示位置を、見やすさ重視で見直す
  • 「何かおかしい」と気づける視認性を設計する

人は「見えるもの」に反応して動きます。
注意喚起より、「目に入るしくみ」が行動を変えます。


2.物理的環境──「リスク排除」で危険を選ばせない

  • 不安全な動線や段差、障害物などを物理的に取り除く
  • 危険物や道具の置き場にルールを定め、守りやすくする
  • 作業台・工具・資材の配置を「安全最優先」で見直す

人は「楽な方」「近い方」に流されます。
“安全な方が便利”な職場をつくることが、継続の秘訣です。


3.心理的環境──「言える化」で安全の声が届く職場に

  • 注意や指摘がしやすい、安心感のある雰囲気をつくる
  • 安全提案には即レスポンスと感謝で返す
  • 日常の報連相に「安全のひとこと」を含めるよう仕組む

人は「空気」で行動を変えます。
“気づいたことを言える”ことが、安全の第一歩です。


環境を整える責任──それが現場管理の本質

現場責任者の役割は、「見張る人」ではなく、「行動しやすい環境を整える人」です。
事故が起きたとき、「なぜあんな行動をしたんだ」と作業員を責めるのではなく、
「なぜそうせざるを得なかったのか?」と環境に目を向ける視点が必要です。


まとめ──安全は、“しくみ”で守るもの

「いのちを守る技術」その3──環境設計の技術は、
現場責任者にしかできない、命を守るための“職場設計”の知恵です。

安全行動を「強制する」のではなく、
やりたくなるような職場環境をつくること。
それが、日々の命を守る本当の安全管理ではないでしょうか。